念願のトランスマンツァ体験! その1
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パスクワ家のペコリーノチーズ作り見学から、過ぎること1ヶ月。(更新にタイムラグが)
待ちに待った羊のトランスマンツァ(家畜大移動)を体験しました。
4月20日前後にするのが恒例だそう。今年は16日(水)に予定していたのですが、例年に増して天候が不安定。延ばし延ばしにしながら、ついに19日(土)に決行しました。

曇りがちの天気。パスクワ家の次男坊ステファノは、不安そうに空を見上げます。
朝8時半、一向はノルチャの彼の自宅を出発しました。
480頭の羊を引き連れ、30km先の夏の定住地カステッルーチョまで大移動です。なんせ480頭もいるので、移動も一苦労。5匹の犬を巧みに操りながら、羊が安全に一匹も欠けることなく移動させるのです。

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Butakoが待ち合わせ場所に到着したとき、羊たちはノルチャの大草原で、のんびりと草を食んでいました。
「今、羊たちは朝食中なんだ」。とステファノ。
聞けばもう2kmほどの行程を歩いたそう。ダラダラと寝そべる羊もいます。
どの子も完全にリラックスしている様子。
これから始まる大移動を知ってか知らずか…。

 と、ステファノが大きな声を上げました。

ウワッ  トゥルルルルルル・・・・。
 奇声と言っていいでしょう。この掛け声は、羊に出発を促しているのです。
さぁ、トランスマンツァの始まりです。天候や羊のコンディションによっては、8時間、いや12時間もかかる体力勝負。果たしてButakoはこの長丁場に耐えられるかどうか。

 ステファノの相棒には5匹の犬が。犬にはそれぞれ役割がきちんと決まっています。羊を先導するのはこげ茶色の毛並みが美しい2匹の犬。お母さんと息子なのです。
ほら、ステファノが犬を命令して、けしかけたでしょ。命令はもちろんイタリア語。犬は人間の言葉が分かるって本当ですね。
それでは、あとの3匹は何をしているのでしょう? それはボディーガードの原理と同じ。2匹は主人の近くに、3匹は羊を野獣や不審者から守るべく、20mほど離れて群れ全体を見守ります。なるほど、合理的ですね。

 
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農道に差し掛かかりました。車が通ろうが槍が降ろうが、前進あるのみ。Butakoが「車が後ろから来たけど…」と心配そうに言っても、ステファノは「これだけの大所帯だから、避けようにも無理だね。運転手に忍耐してもらうしかないさ。」と気にも留めない様子。
農道を過ぎると、『家畜の道』に入ります。家畜の道は移動のために羊だけでなく、牛や馬も往来する道。足場が悪いうえに牛糞、馬糞だらけ…。不思議と無臭なのがせめてもの救い。

 羊のマーチは続きます。羊はとても臆病なので、古着が捨ててあったり、動物の死骸があったり、大きなビールケースが道を塞いでいると、怖がって進もうとしません。
先頭の羊が止まると、後に続く羊も連鎖して止まるのです。そうなると480頭全員が金縛り。足を踏ん張り、顔を引きつっている羊を見ると、ちょっと笑えます。「そんなに怖がることないのに」って。
それを解くのはステファノの役目。例の掛け声をかけて、せかします。それでも無理なら、犬を使うのです。

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 さてさて、知りたがり屋のButako、羊の背中の模様が気になります。これはP3という文字で「パスクワ家、3代目」という意味。本当はステファノの代で4代目なのですが、まだ古いマークを使っています。赤と青に分けているのは、ステファノとお兄さんの羊を見分けるため。単に税金対策だそうですけど。(一人で500頭所有するより二人でした方が安くなるそう)

道中、ステファノとButakoの会話も弾みます。29歳だと思っていたステファノは27歳でした。
高校を卒業してすぐ、羊飼いの家業を手伝い始めました。10年前のことです。
トランスマンツァも今回で10回目。記念すべき節目です。
「10年前の11月。カステッルーチョからノルチャへ下山するのが、自分にとって始めてのトランスマンツァだったんだ。既に山は雪に覆われていた。羊たちは、寒さでヒヅメを傷めてしまい、12時間もかかってしまったんだ。普通でもゆっくり歩く羊が、さらにゆっくり歩いたし、休憩もたくさんしたからね。もう大変だったよ。」
Butakoはすかさず「翌年は、嫌気がさして辞めようと思わなかったの?」と聞くと、
「翌年は、普通道を除雪車の跡を通って、4時間で下山したよ」と。さすがはステファノ。

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「羊を失くしたことは?」
「10年間で1度だけ。ひどく年老いた羊だった。ゆっくり歩くんで、ヤバイなぁと思っていたら、案の定、途中でいなくなってしまった。1週間捜索したけど、とうとう見つからなかったなぁ。」
彼の声は、ちょっぴり湿っていました。大切な羊を失ったこと、ショックだったに違いありません。

 厚い雲の切れ間から、春の日が顔を出しました。肌寒さが一瞬和らぎ、明るい日差しとともに大自然のただ中にいる素晴らしさを感じるのでした。

   次回に続く。
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by butako170 | 2008-04-23 16:00 | プレシディオ・食材
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