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『スロー風土の食卓から』 イタリア通信
 「スロー風土の食卓から」
第11回 ブタ加工品
 
風にさらして上質ハム
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 イタリア人にとってブタほど貴重な食べ物はない。一頭丸ごと処分すると、肉、内臓、皮に至りまですべて利用する。捨てるところがない。部位によって、煮たり焼いたり、調理法はさまざま。生ハムやサラミの保存用にも加工される。

 イタリアの代表食材といえば生ハム。モモの部位を塩漬けにし、風通しのいい場所で、六カ月以上寝かせる。スライスしイチジクやメロンと共に味わおう。赤ワインとの相性もいい。
 生ハムの一大産地として知られる中北部の街パルマとサン・ダニエーレ。厳選された白ブタを一年半以上、熟成されて作る。味の決め手は何といっても風だ。渓谷や山脈から吹く冷涼な乾いた風が、肉の水分を程よく蒸発させ、うまみに変える。長期間寝かせることで、どんどんおいしくなっていく。まさに風土がはぐくむフード(食べ物)だ。
 
 農民たちにとって、ブタの体を覆う厚い脂肪(ラード)は、利用価値が高かった。揚げ油として使い、サラミにも混ぜた。
 大理石の産地であるトスカーナ州・コロナータ村ではラードに塩、ローズマリー、ニンニクなどをすり込み大理石の桶に寝かせて保存食にする。まるで漬物みただ。山から吹き下ろす風と石のおかげで、独特の風味がでてくる。半年たてば食べられるが二年くらい古漬けの方が断然うまい。
 三軒のお宅で味見した。重石を取り、ラードを薄く切る。脂肪の甘さとハーブのいい香りがぱあっと口に広がった。家庭ごとに少しずつ味が違っていて面白い。それぞれの家に受け継がれた伝承の味だ。
 
 衛生上、ブタの処分は冬場のみ行う。冷蔵庫が無かった時代、肉を年中食べられるように、保存の技術が発達した。ブタの加工品は、先人たちの知恵の極限だろうか。こんなものまで作った。
 ブタ血のサラミ!栄養価がとても高い。ブタに寄せるイタリア人の愛執を感じる。

                                    粉川 妙
by butako170 | 2007-12-16 18:02 | 神戸新聞 掲載記事
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