「スロー風土の食卓から」
第8回 もてなし みんなで食事 おいしさ百倍 2005年初夏、秋から始まる料理研修に備え、南イタリア・レッチェに語学習得のため滞在した。 私のいたアパートの階下には老夫婦が住んでおり、よく面倒をみてもらった。土曜日の夕方ともなると「これから食事するから一緒にどう?」とお声がかかる。一人暮らしの身、断る理由なんてない。毎週末、親戚たちを呼び寄せ、ぶどう棚の美しい庭で食事をする。 まずは新鮮なムール貝のワイン蒸しをアテに、白ワインをグビリ。次に手製マヨネーズ入り米のサラダ、ムール貝のスパゲティ、新鮮なチーズとハムの盛り合わせが出てきた。おばあちゃんの手料理、どれもおいしい。 おじいちゃんは「もっと食べなさい」と私のお皿に何でも乗せてくる。娘同然の扱いに心が温かくなった。こうして夏の夜はふけ、デザートを食べ終わるころは、たいてい日付が変わっている。大家族の食卓っていい。 「共に食事する」これこそがスローフードの理念だ。「何」を食べるかに目が行きがちだが、「誰」と食べるかも、非常に大事なこと。 この国では、男性も積極的に台所に立つ。 例えば友人ステファノは、いつもみんなのために腕をふるった。珍しい貝の刺身やスズキのグリル、五種類以上の魚介のだしで作るリゾット(かゆ状の米料理)…。腕前はプロ並み。みんな一斉にお代わりした。一般的にイタリア男性は、親切でおだてに弱いので「コレおいしいね。どうやって作ったの?」と聞けば、素材の選び方から隠し味まで、喜んで教えてくれる。彼らにとって料理は、自己表現の一つだ。 さて、もてなし上手の秘けつとは何だろう? 気軽に招く習慣をつけること。けっして完璧を求めないで。マリネや煮込み料理など、作り置きできたり、豪華で簡単なメニューを選ぶ。見た目が悪くても、客を多少待たせても、気にしない。大勢で食卓を囲み笑いあえば、それだけで料理は何倍にもおいしくなる。 写真説明 海水浴の帰りに、招いてくれた友人=南イタリア、レッチェ
by butako170
| 2007-08-26 23:31
| 神戸新聞 掲載記事
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