マルケのイメージって?そう聞かれると決まって「働き者が多くて、質の良い中小規模工場がたくさんある州」と答えることにしています。トッズやプラダの工場があるし、家電や業務用製品の工場も多く、旧市街の周りにひっそりと工場が広がっていて、自然と工業が両立している州。 アドリア海に面していて、ローマから300~500km東に位置するマルケ州は、私がイタルクックでお世話になり、5ヶ月滞在した所でもあります。 (写真:パスタ工房から望むウンブリアの丘) ここのパスタは私の料理の師匠ミレッラとその友人に紹介されたのがきっかけです。彼女が働くアグリツーリズモの看板メニューの一つ『夏野菜とグアンチャーレのタリオリーニ』が抜群においしくて、シコシコとした麺は、どんだけパンチのあるソースでもヘタレナイという特徴があり、おいしいなぁ、と思っていたから。 マルケ州はマチェラータ県にあるMonte San Giustoにある工房へお邪魔します。 夏の太陽が容赦なく照り付けるお昼前、城壁の外に週一の市場が立っていて、地元の人たちがお買い物。そんな住人の日常が垣間見れるどこにでもあるのどかな郊外の町です。 チェントロから車でわずか3分の所にある工房。笑顔でご主人のルイジさんが迎えてくれました。 まずは事務所でお勉強です。 マルケ州は代々、乾燥卵麺の小規模工場がたくさんありました。スピノジーニは有名で私もイタルクック時代にジャンフランコから教えてもらったっけ。一方、乾麺は南イタリアが有名。ナポリ近郊のグラニャーノは人口わずか2万7千人ですが、パスタの村と呼ばれ、海外に実に16%も輸出をしているほどの名産地です。今でも大部分を手作業での乾麺作りを行っています。 そんな乾麺や乾燥卵麺の頂点に立つのがこの『ラ・パスタ・ディ・アルド』だといいます。「僕が言ったわけじゃないんだ。食べた人やマスコミがこぞってそう評価してくれるんだよ」と話してくれました。 じゃぁ、なぜ頂点なんでしょう。 卵麺作りにおいて、水を一滴も加えないということだけではありません。 なんとパスタの種類によって、使うセモリナ粉の粒の大きさまで変えているというではありませんか!! 魚介類のソースに合わせるのに最適なマッケロンチーニと、イノシシのソースにあうパッパルデッレでは、当然ソースの絡み方が違います。ソースにより麺の形状が違うのは、パスタでは大変重要なことで基本ですが、なんと原材料のセモリナ粉の大きさを使い分けているメーカーなど聞いたことがありません。 実際に工房の中をみせてもらいました。(こちらの様子は動画をご覧ください) 足にビニールを巻き、帽子を被っての入場です。ほら、パスタの生地がボサボサとしています。ナノ単位での気泡が開いているといいます。 大きな攪拌機で練られてまとめられた生地は、座布団くらいの厚さに切っていき、それを圧縮機にかけていきます。気泡を押しつぶさない特別な機械で、ローラーが3箇所ついています。そのパスタを用途に合わせて伸ばした後は、裁断機でパスタを切っていきます。ただし切るというよりは、押しつぶすといったほうが適正ですね。 パスタ作りはルイジさんと奥さんのマリアさん、女性ばかりの従業員で行います。 「パスタは女性が作るものだから」と至ってシンプルな想いから。家族のためにいつも麺を打つのは女性の仕事と昔からきまっているからその伝統を尊重します。 乾燥もとても大切な工程です。機械制御のついていない乾燥室の温度と湿度は一定に保たれています。温度ですが麦が畑で乾かされる気温をけっして超えることはありません。高温だと麦の持つ酵素が壊れてしまうからです。 モットーは「自然を生かした商品作り」。天から与えられた恵みを、壊すことなく加工するのが自分たちの使命、と心得ているのです。 工房は機械化はされておらず、要所要所を人間の目で確かめながら、こねたり、伸ばしたり、切ったり。すべてが手作り。 箱詰め作業も人間の手で行われます。一見単純作業のようですが、良品を見分ける目を養うためには最低2年はかかるのだとか。 おいしく作るためのメソットが詰まったルイジさんの工場。さぞ家族代々から引き継いだものだろう、と思いきや、彼と奥さんが13年前から趣味で始めたもの。 もともとルイジさんは、経理事務所を経営しており、コンサルタント業を行っていました。小さい頃は、祖母のパスタ作りの傍ら、遊んでいたそう。10歳になる頃、手ほどきを受け、週末ごとに参加していたそう。でも大人になっても「パスタ作りなんて女性のやるものだから」と口外しませんでした。 転機が訪れたのは、奥さんと結婚してから。奥さんもパスタ打ちが得意で、たまに二人で作りました。ルイジさんは仕事の合間おいしいものを探索もしていて、粉引き職人を訪ね歩いたりしていました。 30代半ばで祖母が天に召されてから、パスタ作りに使命を覚えるようになったといいます。それから奥さんと試行錯誤をしながら、小さな工房を作りました。「おいしい」。評判は評判を呼んで、3年ほどしてから国内外のメディアから取材を受けるようになります。 CNNの取材のときには、放映だけでなく『Perfection』という取材を元にした本も出版され、そのため世界中から問い合わせが来たといいます。そのときルイジさんは、本業だった経営コンサルティングの仕事をきっぱりとやめて、アルドのパスタ一筋に打ち込みました。イタリア内外で待つ多くの人たちに、このパスタを届けたい…と。 ルイジさんとマリアさんの生活は、アルドのパスタを軸に回っています。朝5時に起床し、夜は2時に寝るルイジさん。アルドの名前は、ルイジさんと奥さんの苗字の一部を合わせた造語なんですって。アルドは彼らの分身と言えますね。 さてさて、そのお二人には20歳前の息子さんがいるそうですが、これから一緒にやろう!と言ってくれているそうです。得意の英語をイギリスで磨いて数年後に帰ってくるそう。 息子さんも加われば、さらにパワーアップすること間違いありません。 輸入にご興味がある方は、butako170★hotmail.co.jp まで(★を@に変えてね) 商品のラインナップは、伝統的なマケロンチーニやタリアテッレ、パッパルデッレ以外にも、ファッロや蕎麦粉で作ったものなどルイジさんのオリジナル商品もあります。そば粉を練りこんだものは北部のバルテリーナ地方で食べられていますが、それとはまったく異なる製法で、野菜などのソースと合わせやすく開発しています。 夢のような昼食は次回に。 butako
by butako170
| 2012-07-22 18:16
| プレシディオ・食材
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