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チヴィタの酪農家 ルイジーノ 
今週末は、1泊2日でヴァルネリーナの谷とリエティ方面に行ってきました。
何回かに分けてレポートしたいと思います。旅のテーマは、ズバリ『有機』。有機農法でがんばる農家、農家の様子をコントロールしに来る認定組織のお仕事の一端などをご紹介します。ウンブリアの有機のこと、少しは分かるかなぁ。
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チヴィタ村は、ヴァルネリーナの南東に位置するカッシャ市のfrazione(村)です。標高1200mという高山にも関わらず、農業に携わる人がほどんどな村。村は30家族で構成されていて、その半数は30歳以下という、寒村には珍しい若者の多い村なんです。
butakoは、3年前からチヴィタ村のシルヴァーナさんと知り合い、彼女の動きに注目しています。彼女は、サフランを400年ぶりにこの地に復活させた立役者で、野生のグリンピースをスローフード協会のプレシディオ認定品にした行動派の農家です。

今日は、シルヴァーナの紹介で、チヴィタで有機酪農をしているルイジーノさんに突撃インタビュー。
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羊は500頭、牛(肉牛)は15頭飼っています。
まずはその小屋へ訪問たいがいの牛は、放牧中ですが、こうして出産したばかりの牛は小屋の中に残っています。右手に見えるホルスタインの子供は、乳牛用に買ったもの。

500頭の羊は、毎日300頭分搾乳し(毎日お乳が出るとは限らないので)、15個のペコリーノとリコッタチーズを作ります。搾乳は朝、晩の2回。一回目の乳搾りが済むと、放牧されます。
夏休みに入って、もっぱら放牧の仕事は3男坊(10歳)の仕事なんだとか。ルイジーノさんには7人の子供がいるそうですが、どの子も屈託のない笑顔を向けてくれます。
7人7様で、なかには三男坊のように、羊飼いに興味があり、自発的に手伝ってくれる子もいるんだ、とルイジーノさん。とてもうれしそうに語ってくれました。

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チーズ工房は意外なほど清潔でした。なんでもASL(衛生局)が決めた基準をきちんと満たしていなければならないからです。
毎日一回のチーズ作り。羊を放牧しながらの作業はなかなか大変ですね。
ASLの規定によれば、チーズの副産物のホエーは、普通に捨ててはならないそうです。それなりに処理を施してから捨てなければなりません。。
ルイジーノさんは、ホエーは捨てずにブタの飼料に。
そう、谷の生活は何でもリサイクルなんです。無駄なものなど、一つもありません。

もともと30頭くらいの羊を飼っていたルイジーノさん。
若い頃は、出稼ぎにローマに行き火夫の仕事をしていたそうです。
6年ほど前に、酪農家に一本化し、ずっとチヴィタの町で牛や羊を飼っています。

Q.有機酪農を目指したきっかけは?
A.もともと、この辺は大地も汚染されていなかったから、どうせやるなら有機酪農にしようと決めていたんだよ。でも地元での有機の認識が低いから、肉屋に「これ、有機です」って売ったら逆に変な目で見られちまう。
だから、有機なんだけど、有機って言ってないんだ。
まだまだ意識が低いんだな。

え?今、有機が伸びているの?
この谷ではそんなんじゃないよ。もっと有機のよさをPRして、消費者が増えないといけねえや。

飼料の関係もあるから、当然、農業も有機でやっていて、それは10年くらい前から、はじめた。きっかけは、噂なんかを聞いて、へぇ、そんなのが流行ってるのか、じゃあやってみよう・・・って感じだよ。


Q.有機の認証機関はどこにしているんですか?
A.IMCだよ。年に一回、チェックに来るよ。

Q.今の生活で潤っていますか?儲けは十分にありますか?
A.いや、儲けなんてそんなにないよ。家族9人が食べて行けているくらいだよ。
幸い、農家っていう仕事は食いっぱぐれがないから、いいよな。
しかし、チーズ工房を作る際も、すごく苦労したんだ。市も、建築家も、測量士もきちんとした仕事なんかやってくれやしない。みんな適当なんだ。
そのおかげで、地盤のゆるいところに建ててしまい、4メートルも沈下してしまった。結局、追加金を払って直すのはこちらだから、たまったものではない。
皆、やれ、やれって勢いは良いけど、人事で適当なんだ。市もかなり官僚的だしねぇ。


Q.モチベーション下がりますね。
A.そうだな。でも結局、7人の息子たちを食わせないといけないし、俺にはパッションがあるからね。
(56歳のルイジーノさん、かっこいいなぁ)


Q.チーズの評判はいいですか?
A.おかげさまで。よく売れているよ。
まだASLからエチケットが届いてなくて(もう2年前から申請しているのに)、つくづく官僚体制に嫌気がさしているけどね。だから、自分で売りに行っているよ。
1kg10ユーロだ。

知り合いの羊飼いは、乳を卸しているんだけど、今、1L/60セントまで叩かれている。大手チーズ会社の陰謀だよ。俺は、そうなることが見えていたから、6年前にチーズ工房を作ったんだけど、そのとき設備投資していて良かった。
乳のままだったら60セントだけど、加工すればチーズだけでなくリコッタも作れるし、ホエーはブタの餌にもなるし、一石三鳥だから。もう、羊乳だけじゃ商売にならない時代だよ。


ちょうど、次の日、サルデーニャで羊飼いたちが、乳の買取値が安すぎることに対して、1500人規模のデモを起こしていました。セルジーノさんの言っていたことを痛感する思いでした。

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Q.標高1200mの酪農家の苦労ってありますか?
A.冬が長いことかな。雪や雨で3ヶ月も小屋のなかに羊や牛を閉じ込めないといけない時もあるからね。ここは冬が厳しいから、その苦労があるよ。

帰りにルイジーノさんの自宅にお邪魔しました。
優しいけど芯の強そうな奥さんのナタリーナさんが、リコッタチーズ入りのケーキを焼いていました。上にあしらったそぼろ状のフィリングがおいしそうですね。

後日、お礼の電話をした際、「皆さん、お元気ですか」と聞くと、「神様のご加護のおかげで元気にしとりますよ」という明るい声が聞こえてきました。自然とともに9人家族で暮らすセルジーノさん。苦労も多いけど、すごく人間らしい生活をしているなぁ、と思いました。

                                                  butako
by butako170 | 2010-08-22 20:16 | ヴァルネリーナ valnerina
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